放射線量
外部発表
   このホームページでの活動に関して、講演依頼が多数ありました。2011年10月4日 日本ITU協会で、放射線量の計測の顛末を講演する機会がありました。機関誌「ITUジャーナル」2012年1月号にその講演録が掲載されましたので、了解を得て、ここに掲載いたします。(一部修正)
 これからも、できるだけ講演依頼には応え、実施してまいりたいと考えております。

 論文にまとめ発表しました(2014年3月31日)。こちら
 
1.はじめに
   御紹介いただきました石川でございます。ITU協会では、本業のネットワークのお話をさせていただいた記憶がありますが、今日は、仕事の話ではなく、趣味の話をいたします。ナチュラル研究所と六本木男声合唱団というのが、今私の一番の関心事でございます。 

2.ナチュラル研究所とは


   10年前に退職金をはたいて家を造りました。東京都日野市、多摩動物公園の森の続きみたいな所でございます。環境はいいのですが、大変寒い。寒いのはちょっと苦手なので、「OMソーラー」という、太陽の熱を変換せずに熱のまま家の中に取り込む、暖かい家を造りました(スライド2)。太陽熱利用型住宅です。
 太陽から降り注ぐ熱エネルギーは大変なものですが、マイルドですからなるべく熱を逃がさないようにしなければなりません。家の基本構造として、高気密、高断熱で造ります。これは特に珍しいわけではなく、最近の多くの家はみんなそうなっています。違うところは、屋根が二重になっていることです。内側が断熱材を挟んだ構造体で、その上に、ガラスがあって、その間に空気の通り道があります。軒の下から空気を取り入れ、ゆっくりゆっくり上まで行く、その間に太陽が照って、加熱します。屋根裏の頂上まで達した暖められた空気をファンで床下に吹きつけます。床下にはコンクリートの分厚い基礎があるのですが、そこが暖まり、蓄熱します。それが夕方になり、外気温が低くなると放熱し、ホカホカと家全体を床から暖めるという構造です。
 夏は窓をいっぱい開け、自然換気させます。事前に風の向きを測っておいて、窓の位置を決め、家の間取りも仕切を少なくし、中に廊下を作らずに、風の通り道を作ります。庭には落葉樹を植えて日陰を作ります。屋根に降った太陽エネルギーは、ダクトからどんどん外に追い出します。熱風の通り道に自動車のラジエターのような熱交換機があり、そこに不凍液を循環させ温めます。ドラム缶くらいの大きさの水道水をためる貯湯タンクがあり、そこに温められた不凍液を導き、水をあたためお湯にします。
 住んでみると大変快適で、思いどおりの家になりました。一体どのくらいのエネルギーが天から降ってくるのか、家の外の温度と内側の温度とどのくらい差があるのかということを測りたくなり、いろいろセンサーを買ってきたり、自分で作ったりしました(スライド3)。気圧計や湿度計、風速計、風向計などそろってきたので、気象台になっちゃいました!(笑)ガイガーカウンタもつけ、いろいろ計測を続けております。全てパソコンが自動計測してくれます。それがナチュラル研究所で、所員は1名、所長兼研究者であります。 
3.測定結果はどうか
   それで測定結果の例ですけれども(スライド4)、外気温は、冬の最低気温がマイナス6℃、夏の最高気温は37℃、そういう気象環境であります。ところが最も寒い冬の零下の時でも、この家の室温は15℃より下がりません。夏も、自然換気が主ですから暑いですが、エアコンは1年に数回入れるだけです。これを全部ガスやヒートポンプでやろうとすると、相当のエネルギーがかかりますから、やはり太陽の熱というのは、かなりなものであるということが分かります。
 光熱費の点ですが、一番寒い日でも、朝1回ストーブを1時間くらい入れて、切ってしまいます。その後太陽が上がり、それからはずっとさっきのいろんなカラクリが回って過ごします。ですから、冬はそれでも暖房のガス代とお風呂をたくガス代、これはかかります。これが夏になるとどうなるか?夏はお風呂代にほとんどお金がかからないので、台所の煮炊きのガス代しかかからず、基本料金くらいになります。電気は、冷蔵庫とかテレビとかそういうのをつけていますので、大体年中ほぼ一定です。要するにそうやって、12年くらいたつと、家本体ではなくて、さっき言った熱を取り入れるカラクリの元はとれる、そういう勘定になっています。
4.気象観測の例


   気象観測の例として風向と風速を例示します(スライド5)。瞬間風速の夏1か月の分布のグラフを御覧ください。赤は昼間の分布、青は夜間の分布です。昼間は結構しっかり風が吹きます。ですが、夜になると風は弱まりほとんど吹かない時が多くなります。測定してみると、風っていうのも、太陽で起きているんだな〜温度の差があって初めて空気の流れができるんだ〜ということを実感します。非常に不安定なエネルギー源です。これを電気に変えようとするには、相当工夫しないといけませんね。
 次に風向についてのレーダーチャートを見てみます。南西の風の頻度が一番多く、北の風は少ない。福島第一原子力発電所は当研究所から北北東230kmですから、向こうで何かあっても、なかなかこっちには来ません。風で飛んでくる確率は低い。首都圏から見ると良い位置に発電所を作ったことになります。しかし南西180km行った所に中部電力浜岡原子力発電所がありまして、あちらで事故をやったら、これは東京、関東首都圏、もう大変なことになるとこのグラフを見ると分かります。うん、そうか、やっぱり停めていただいて良かったなぁと思うわけであります。
 それやこれやを、リアルタイムでホームページに全部公開しております(スライド6)。ある時、気象庁の幹部の方と宴席がありまして、言わなきゃよかったんですけれども、「私こういうことをやっているんですよ!エライでしょう!」と言ったら、まずかったらしいんですよ。「気象データを趣味で測定するのは、一向に構いません。でも、それを正しいがごとき顔をして、公開するのはちょっと問題です。まずは計器が正しいか、公の検定を受けて下さい」「じゃあ受けますかな。検定料は幾らくらいですかね」と言ったら「1台60万円です」と。1台何千円くらい、せいぜい2万円の雨量計しかコストをかけていないのに、検定料1台60万円と聞いて、ちょっと…“う〜ん”というのが一点(笑)。それから当時のホームページが“デジタル日野気象台”としていました。「気象台というのはまずいんじゃないですか?これは。登録商標ではないが・・・」と言われて“当気象台と気象庁は全く関係がありません”というクレジットを入れて勘弁してもらいました。そういうこともあり、現在“ナチュラル研究所”というタイトルにしたのであります。ナチュラルは私の愛する音楽の譜面に出てくる記号でもあります。
5.その瞬間を捉えた


   さて、本日の主題の放射線計測の話に移ります。放射線は様々な計測方法がありますが、簡便にはガイガーカウンタという計測器を用います。ガイガーミューラ管という真空管みたいなものの中で起こる、放電の数を数えるんです。その数は放射線の強さに比例します。cpm(カウント/分)と言うんですけれども、その値から、最近よくお聞きになっているシーベルトに換算します。1分間に何回放電があったかということですが、それはランダムに起こるのです。瞬間的には増えたり減ったり、増えたり減ったりします。そのような確率事象を扱う学問は、私の専門のトラヒック理論と言います。電話がかかってくる頻度、1日の交通事故の数、1ページの誤植などは、ポアソン分布というのになります。ガイガーカウンタの数値も、検定してみると確かにポアソン分布でした。これを以前からホームページに出していたのですが、ギザギザのグラフが続いているだけで御覧になる方はほとんどいらっしゃいませんでした。が!来たんですよ!やっぱり来た。
 震災があったのが3月11日。後からいろいろ分かったのですが、12日頃から福島第一原子力発電所はいろんな事が起きていたようですね。ベントを開けたとか、水素爆発があったとか、建屋が飛んじゃった、とかいろいろありました。ですから、14日、15日、これは相当の量の放射性物質が大気中に飛散しました。あそこは南東の風が強いエリアですから、飯舘村とか、北西の方に放射性物質が飛んだのでしょう。こちらに、東京に来るのは少なかったと思います。思いますが、あとで調べたらその時、北東の風が一時当方に吹きました。
 それがこの瞬間でありまして、3月15日、ちょうどお昼頃、急激に上がったのであります(スライド7)。このピークは0.75マイクロシーベルト/時ということで、その後も何回か波がありました。
 この瞬間をリアルタイムに計測して、ホームページで見ることができたのは日本で、ということは世界で、私のサイトだけだったらしいんですよ。2チャンネルやFacebookに紹介され瞬く間に広がり、とにかくモーレツにアクセスが来ました。3月11日地震発生前は、1日に10回程度しか我がホームページに見に来る人がいなかった。しかし3月15日、一気に増えまして、6万件になりました(スライド8)。これは、トップページから入った人で、しかもアクセスがちゃんとできた人の数ですから、お気に入りで直接グラフのページにアクセスした人、オーバーフローして見ることができなかった人、あるいはミラーサイトの分も入れると、少なくともこれの3倍から10倍はアクセスがあったのではないかと言われております。私のサイトは、二つのプロバイダを使っていますが、ひとつは私が立ちあげたNTT系のプロバイダです。連絡をしてみると、大変なことになっています、他の人に迷惑がかかっていますということです。頑張って分離対策をしてもらって、それ以降はふくそうが起こらなくなりました。
 私のところは計画停電のエリアでしたから、停電が心配だ、とFacebookに書いたら、無停電電源装置のデッカイやつを宅急便で送ってくれたり、ミラーサイトを作ってくれたり、多くのサポーターが現れました。地元の市議会の方、外国メディア、BBCなんかも取材の申込みがありました。日本で放射線量が3月16日時点で、公開されているのはあなたのところしかない、と彼らが言っていました。
6.3月11日以降のあれやこれや
   いろんなことをメールやFacebookで言ってくださる方がいて、ちょっと紹介させていただきます(スライド9)。“国の情報を得られない中で、数値で確認できるというのがすごいです”とか、“政府や東京電力の数値はあてにならないので、こちらだけが頼りです”、“税金でやっていないようなので安心です”。どうもこの国は随分信用度の低い国になっちゃいました。“市民は馬鹿ではありません。冷静ですから、こういうデータが公表されてもパニックには陥らない。逆に公表されない方が非常に不安をかきたてられます”。英語のものやロシア、韓国からも来ました。
7.被災以前から計測していた唯一のサイト






   使用したガイガーカウンタは写真のような簡単なもので、アメリカのサイトから199ドルで購入したものです(スライド10)。
 当方の特徴は(スライド11)、災害以前から計測していたので、災害の前後で比較ができるということです。ではなぜ放射線量を計測することになったのかですが、これを作るきっかけとなったのは、2005年の11月、北朝鮮が核実験をやるというので、大騒ぎになりましたが、誰ひとり安全かどうか測定するという人がいなかったので、じゃあ私がやるか、という軽い気持ちで始めたものです。
 もうひとつ当方の特徴は、気象情報と連動していることです。放射性物質の飛来は風や雨の影響を受けます。もともとが日野気象台でありますから、風がどう吹いていたとか、雨がどうだったとかが分かる。それと放射線量と突き合わせると、納得のいく説明ができます。
 さらに、研究用に生データ、数値データを随時公開しているのが特徴です。これによって幾つかの研究機関が、大型の計算機で逆算して福島からどれだけの物質がどのように飛来したか、研究をされています。「石川さんの所が随分高いけど、何か操作しているんじゃないか」と言ってくる方がいます。それは、バックグランド放射線量、これの差が大きいです。大地から出る放射線は地質の違いが大きいし、大気中の天然物のちりや、宇宙線の影響もあります。ですから、それを差し引くかなどは、本当は標準化しなくてはならない。ところがこの放射線量の測定というのは、全然標準化されていないのです。私は2階、高さ4mの所でやっていますけれども、最近は1mの所で測りましょうと約束ができつつあります。後で決めるものだから、石川さんの所は、何で4mですか?と言われても、こちらの方が老舗なのに困っています。なかなか他と比べるのはやりにくいのであります。
 国がやっているSPEEDIというシステム、日本語では「緊急時迅速放射能影響予測」というのがあると後で知らされました(スライド12)。風のデータを入れまして、どこへ飛んだとコンピュータシミュレーションを災害直後から、やっていたのですよね。しかし、公開されたのが4月26日ですよ。一番大事な時に官邸に届かず公開もされなかった。大変なお金を使って開発したのに使われなかった。どこで情報の流れが止まってしまったのか、明らかにされつつありますが、結果として国民を危険にさらし、許し難いことです。
 一方、オーストリアの研究所では事故直後から日本の放射線をシミュレーションして、その結果を動画で3月16日から公開していました(スライド13)。これを見ると、かなり広域に日本各地に放射性物質が飛び散ったことが分かります。ヨーロッパの人が日本から引き揚げたのはこのような情報に基づいたものでしょう。
8.長期間観測


   半年ほどデータを御覧に入れます(16、17)。このグレーのギザギザの線が1分ごとの計測値で、赤の線が10分間の移動平均値です。グレーの線は先ほど言ったポアソン分布で大きく上下していますから、平均を取らないと、少なくとも10分間は継続計測しないとダメです。最近は簡単な計測器を売っていますけれども、正しい数値を得るには、少し時間をかけて計測しないといけません。
 被災前の2月はほぼずっと一定なのですが(スライド省略)、ところどころポコッと上がっているところがあります。グラフの下には1日の雨量も示しています。雨がたくさん降ると、天然の放射性のちりが下に落ちてきて、数値が上がる、ということが平常時でも見られました。次が問題の3月です(スライド16)。3月15日は先ほど説明したように、大きなピークが何度か見られます。その後それは1回下がって、3月21日にもう1回上がっています。その時に東京は雨が降ったのです。爆発があってから初めての雨でした。だから放射性のちりが恐らく上空にたまっていてそれが地面に落ちた、というふうに理解をしておりました。後になって「3号機で3月21日に黒い煙が上がったが、それは再溶融が発生したため」という発表があり、新たに放射性物質が放出され、東京に飛来し、雨で地面に落ちたと判明しました。
 その後はどうなるかというと徐々に低下します。これは、半減期が8日間と短いヨウ素131のためです。そして4月、よく見るとじわじわ下がってきました(スライド省略)。後はほとんど変化がありません。雨が降ってもほとんど変わらない。ところが9月になって、ちょっと気になるデータが計測されました。9月21日にごくわずかですが上昇しているのです(スライド17)。これは台風15号のせいです。当日は、最初は北東の風が吹いていて、東から南の風になった。台風は東京の西側を通りましたので、教科書どおりに風向きが変わり、しかも瞬間風速40メートル/秒を超える、強い風が吹きました。ですから、原子力発電所あるいはその近辺にあった放射性物質や汚染水が舞い上げられ、その一部が東京まで強風に乗ってやって来て、大雨でたたきつけられたのではないかと思います。このことは報道されず、ニュースにもなっておりません。
9.放射性物質はどこに行った
   さて、今まで見てきた放射性物質はどこに行ったのでしょうか。放射性ヨウ素は時間がたったので、もう影響はほとんどないのですが、放射性セシウムが問題です。半減期30年、すなわち30年で半分になるから、少しは減ってきたかと思い電卓で計算してみると、年間に2.3%しか減らないのです。今年、来年なんて、ほとんど変化なしと思った方がいい。どこにあるかだけの問題です。私の近所ではどうなのか、地元から要望があったので計測してみました(スライド18)。ガイガーカウンタをもう1台手に入れ、庭を測定したり、公園の砂場を測りました。地上近くで測ると地上4メートルの定点で測るより確かにちょっと多いですが、大した差ではない。ところが道路側溝の砂、ここにきていきなり数値が上がりました。雨水の流れが遮られて砂がたまる所は、砂だけではなく放射性物質もたまっていた、というわけです。
 ホットスポットとはこういうものかと納得しました。ここからきっと下水に流れて、下水処理場に行って、下水処理汚泥のなかに今あるのでしょう。あるいは大部分は海に流れて、東京湾にいきつくということだろうと思います。今、除染が各地で進められていますが、放射性物質を集めることになります。集めると濃くなりますよね。濃くなると危なくなる。では水をかけて薄めるという方法があります。薄めて海に流します。集めた方がいいのか、薄くして海に流した方がいいのかよく分からないですね。いずれにせよ、放射性物質が減るわけではありません。
10.アマチュア観測ネットワーク
   私と同じ流儀で観測をやっている方が、全世界に何人かおられます。もともとアメリカはアマチュアの気象観測が盛んで、放射線の計測も熱心であります。被災前には日本では私ひとりでしたが、最近かなり増えました。最近は仲間が増えまして、日本のアマチュアのネットワークが完成しておりますので、今度何かあったら見逃すことはないだろうと思われます(スライド19)。
11.まとめ
   災害から何を学ぶか、人それぞれだと思いますが、災害時の情報公開について、ちゃんと考えないといけないのではないかと思います(スライド20)。適切な情報を飾らず生のまま、リアルタイムで出す、修正する暇もなくどんどん出しちゃう、ということが肝心ではないでしょうか。隠す、小出しは信頼を損ね、かえって不安を増大させます。災害からいろいろ反省をし、対策を立てなくてはならないのだけれども、そのためにも情報公開というのは必要なのではないかと考えます。国の持っている防災情報をPublic domain化して積極的に公開すべきだと思います。
 受け手の国民も、他人任せで、お国がけしからん!と言っているだけではなくて、自分自身の判断には、自分で工夫して質の高い情報を得る、ということも大事ではないかと思います。
 放射線の計測は、科学技術庁の流れで文部科学省の担当となっています。しかし計測の手足がないんですよね。どこか学校に置かせてくださいとか、市町村にお願いしますとなります。継続的に実行するには、組織が大切で、長丁場で24時間保守もちゃんとやって、コンピュータも止まらないようにしながらリアルタイムに計測する、結構大事なことです。気象庁はその組織を持っています。測候所があり、アメダスは、日本全国1,300か所あって、無人で測定するシステムが完成している。そこにガイガーカウンタを付加すれば、データ回線もブロードバンドも全部引いてある、メンテナンスの体制もできている。加えて、先に述べてきたように放射線量は気象データと合わせることにより、よく理解できます。だから、気象庁がおやりになるのがいいのではないですかと、余計なことですが考えております。
 ざっぱくな話でございますが、以上にさせていただきます。ありがとうございました。



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